水は生命の源です。地球上に生物が存在するのは水が液体として大量に存在するおかげですし、人間の身体組成にしても6〜7割が水です。そして、天から降り落ちた水を集めつつ下り、その過程で自然や生命に様々な恵みをもたらすのが川です。
古くから、植物を育む水と土を豊かにする養分を含む川は、大規模な農業に不可欠でした。また、水運の経路となって、物や人や情報が行き交いました。古代四大文明がすべて大河の中下流域で起こったことは決して偶然ではありません。一方、水を巡る争いも古来絶えませんでした。ライヴァルの語源は小川を意味するラテン語リウスだそうですが、英語のリヴァーとも似ています。現代では、世界の多くの都市の中心に川の流れがあり、水辺の空間が街に潤いを与え景観を形成しています。
川は文学や音楽の格好のモチーフとなっています。アメリカ文学の元祖とされる『ハックルベリー・フィンの冒険』は、つきつめれば、ミシシッピ川を筏で下る少年のお話であり、『方丈記』の「行く河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず」とい
う有名な書き出しは見事に無常観を言い尽くしています。さらに言えば、個人や一族の盛衰を歴史の変遷の中で捉えた長編小説をたとえて「大河小説」と呼ぶほどです。
チェコ国民楽派のベドジフ・スメタナの連作交響詩『我が祖国』のうち、ヴルタヴァ川を題材とした第2曲は美しく雄大な旋律と『モルダウ』というドイツ名で知られ、ワルツ王ヨハン・シュトラウス2世の珠玉の名品の中でも『美しく青きドナウ』はオーストリア第二の国歌とまで呼ばれます。昭和の歌姫こと美空ひばり最晩年の代表曲『川の流れのように』を聴くと、様々な思いが胸に去来します。
益田の市域は、高津川と益田川の流域にほぼ相当します。ここに住む私たちは日々川の恩恵を受けるとともに、一方でその脅威にさらされてもいます。常に治水を怠らず、透き通る水質をいつまでも守りたいものです。