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市長室からこんにちは(平成28年12月号)

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年11月22日更新

 師走の音楽といえば、いくつかのクリスマスソングに「第九」。年の瀬になると演奏や放送が立てこむことから、「第九」は冬の季語とされています。

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第九番は、「楽聖」の最後の交響曲であるだけでなく、人類史上もっとも偉大な音楽作品の一つとされます。しばしば『合唱付き』という副題を伴うのは、言うまでもなく第4楽章に合唱が登場するためです。フリードリッヒ・フォン・シラーの詩『歓喜に寄す』に感動し、これに曲を付けることを思い立ったのは、ベートーヴェンが22歳のときでした。これを一世一代の傑作において実現したのは54歳、実に三十年越しの宿願を叶えたわけです。

 この偉業はその後の音楽に大きな影響を与えました。特に、交響曲に求められる水準が極めて高くなり、それまでのモーツァルトやハイドンのように交響曲を二桁も三桁も多作する作曲家は稀にしか現れなくなりました。加えて、ベートーヴェン以降、交響曲の大家がことごとく第十番完成の前に世を去ったことから、「第九を作ると死ぬ」という迷信まで生まれました。これにおびえたマーラーは、第八番の次の交響曲を『大地の歌』と名付けますが、続いて第九番を世に出したのが災いしたのか、次の第十番作曲の半ばでついに息絶えてしまいました。

 また、CD(コンパクトディスク)の直径を12㎝としたのは、ベートーヴェンの第九の演奏時間を考慮した結果という説が有力です。その後、光ディスクの技術はどんどん発達し、第二世代のDVD、第三世代のブルーレイと飛躍的に大容量化が進みますが、直径については不変です。

 比類なき音楽の才能と聴力を失うという致命的なハンディキャップ、その両方が一個人の中に宿ったのは余りに苛酷な境遇に思われます。しかしそれこそが、後世の人々にも感動と勇気を与え続ける「苦悩と闘争から、勝利と歓喜へ」という劇的な展開を創造させるために天が与えた試練だったのかもしれません。