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市長室からこんにちは(令和2年4月号)

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年3月24日更新

 一昨年にアイルランドを訪問したとき、空港の案内表示や道路標識はアイルランド語と英語の二言語表記となっていました。憲法にも、第一公用語はアイルランド語(ケルト系のアイルランド民族固有の言語で、別名ゲール語)、第二公用語は英語と定められています。ただ、街角で人々が実際に話していた言語は、ほぼ英語のみでした。

 アイルランドに英語が浸透していったのは、イギリスによる植民地支配が強化された17世紀以降とされます。さらに1840年代、アイルランドの人口を半減させたとされる「ジャガイモ飢饉」による大量の餓死と国外脱出が、英語への言語交替を決定的なものにしました。イギリスからの独立後約1世紀を経た今も、ほとんどのアイルランド人にとっての母語は英語となっており、アイルランド語は学校で学ぶだけの言語にすぎません。

 確かに、英語はこの数百年間、イギリス、アメリカという世界の政治・軍事の最強国の言語であり、経済的にも有利な言語でした。自らはアイルランド語で育てられた世代が自分の子どもには英語を選ばせ、身に付けさせたのは、その将来を思う親心からだったに違いありません。

 一方で、現在政府はアイルランド語をかけがえのない民族の誇りとして保持に全力を注いでいます。今でもアイルランド語を話す少数地区(ゲールタハトと呼ばれる)や家庭を手厚く優遇するほか、高校修了試験をアイルランド語の問題文で解いた場合は点数を1割増しとし、公務員採用においてもアイルランド語能力を必須としています。

 アイルランドの例は、言葉が人々にとってどれほど貴重なものかを如実に物語っています。このことは、アイルランドを始め海外と交流する際に忘れてはならない教訓であり、さらに言えば、手話が言語であることを明確に規定した手話言語条例が聴覚障がいのある方々だけでなく、すべての市民に対して持つ意味も指し示しているといえます。

※ 参考文献 嶋田珠巳『英語という選択―アイルランドの今』2016年、岩波書店