秦佐八郎博士の生い立ち・年表
誕生
「さあさん、ちょっと来てやんさい」と母ヒデはいたずら盛りの少年佐八郎を呼んで、物静かに土蔵の中で諭した逸話は、有名な話である。
1873年(明治6年)3月23日石見国美濃郡都茂村大字都茂、笹利 山根道恭の8男に生まれる。すぐ上の兄 藤七(後漢文学者、大学教授)とは良く遊び良く学んだ仲良しで、叱られるのも2人づれのときが多かった。
秦家へ
藤七兄に負けず劣らずの勉強好きで、小学校の成績も抜群であったという。
やがて小学校卒業のころ同地医者秦家では1人息子の早世から、縁戚山根家へ養子話を持ち込んだ。はじめは藤七にする話があったという。
勉学
「岡山に出て勉強が出来る」と、14歳の少年佐八郎は秦家に迎えられて、益田の私塾新徳教社で英語を学び、やがて1891年(明治24年)岡山第3高等中学校(後高等学校)医学部に入学した。
学友からは「山の神」と田舎出身の秀才に綽名が付けられた。教授たちには「恐るべき生徒」といわれる天才ぶりを発揮した。
上京
岡山第3高等学校医学部卒業後、1年志願の兵役を務め、1897年(明治30年)岡山県立病院助手となった。井上善次郎博士から内科学、荒木寅三郎博士からは医化学を学びながら上京の機会を待った。
郷里からは帰郷の催促もあったが、秦家の理解と荒木寅三郎教授の推薦があって、1898年(明治31年)8月上京、大日本私立衛生会経営の伝染病研究所に入所、所長北里柴三郎博士に師事することとなった。
留学
伝染病研究所に約10ヵ年、研究心旺盛な青年医学者として各種公務にも携わり、その間日露戦争にも従軍、後推されてドイツ留学が許される。
ドイツに3ヵ年、特に国立実験治療研究所ではエールリッヒ博士を扶けて梅毒に対する特効薬の研究に奮闘、遂に1910年(明治43年)世界初の化学療法剤サルバルサン(救うの意)606号を発見した。
エールリッヒ博士は、旧友北里博士に「ドクター秦がいなければ、こんなに早くは成功しなかった」と感謝の手紙を届けた。
晩年
サルバルサン発見者として、特にこの薬による治療方法の指導や衛生思想の普及向上につとめ、慶応大学教授を歴任し帝国学士委員会にも勅選された。郷土へは図書館を贈って青少年を励ましたが、1938年(昭和13年)65歳にして病にたおれ、その尊い生涯を終わった。
秦佐八郎博士年表
西暦 | 年号 | 年齢 | 事柄 |
---|---|---|---|
1873 | 明治 6 | 3月23日 石見国美濃郡都茂村(現美都町)山根道恭・ヒデの8男として出生 | |
1887 | 明治20 | 14 | 同村医家 秦徳太・ツタの養子となる |
1891 | 明治24 | 18 | 7月 岡山第三高等中学校医学部に入学する |
1895 | 明治28 | 22 | 8月 秦徳太の長女チヨと結婚 |
1898 | 明治31 | 25 | 8月 大日本私立衛生会・伝染病研究所に入所 北里柴三郎所長に師事する |
1904 | 明治37 | 31 | 4月 日露戦争従軍・南満州(現中国)各地に赴く |
1910 | 明治43 | 37 | 4月 ドイツ国立実験治療研究所でエールリッヒ博士を扶けてサルバルサンを発見 ドイツ学会に発表 |
1911 | 明治44 | 38 | 4月 サルバルサン発見の功績により勲5等双光旭日章を受ける |
1912 | 明治45 | 39 | 7月12日 医学博士の学位を受ける。 論文「螺旋菌病のヘモテラピー」 |
1914 | 大正 3 | 41 | 11月 伝染病研究所移管に伴い北里所長と共に総辞職、北里研究所設立に参画 |
1915 | 大正 4 | 42 | 国産サルバルサン創製に成功 |
1921 | 大正10 | 48 | 6月 極東熱帯医学出席のためインドネシア・ジャワ・バタビヤに出張 |
1923 | 大正12 | 50 | 2月 アメリカロックフェラー財団の招きで同国・カナダの医事衛生視察 |
1926 | 大正15 | 53 | ドイツ帝国自然科学院会員に推される |
1928 | 昭和3 | 55 | ドイツで開催された国際連盟主催、サルバルサン標準国際会議に出席 |
1931 | 昭和6 | 58 | 恩師北里柴三郎博士死去 6月 北里研究所副所長に就任 |
1933 | 昭和8 | 60 | 1月 帝国学士院会員に勅選され終身勅任官待遇を受ける |
1935 | 昭和10 | 62 | 7月 財団法人保生会創設に参画。常務理事長となる |
1938 | 昭和13 | 65 | 7月 慶応大学付属病院入院 11月22日 同病院で死去 |
生家
エールリッヒ博士と秦博士
(この写真が記念メダルとなった)
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更新日:2022年01月04日